【閲覧注意】ラヴィーネ「特効薬は幼馴染」

【閲覧注意】ラヴィーネ「特効薬は幼馴染」


PART 1/6


(また痛む…どうしちまったんだよ 私の身体は…)


ラヴィーネがその異常をはっきりと自覚したのは、一級魔法使い選抜試験が終わって間もなくの頃だ

何故か、二次試験にてゼンゼの複製体に貫かれた箇所が身体の内からズキンと痛みを発するのである

回復魔法によって外傷は完全に残っていないし、その後に受けた診察でも体内も異常無しと診断された

なのに

前触れもなく、突然、腹部に痛みが走るのである

何が発生原因なのか?、ラヴィーネはまるでつかめないまま、発生する度に痛みは徐々に増していき

そしてとうとう、カンネの前で耐えきれず患部を押さえて膝をついてしまった

「ぐぅっ…」

「ラヴィーネ!?」

異常を察知したカンネがすぐに駆け寄ってくる

「ラヴィーネ?どうしたの!?大丈夫?」

「だ…大丈夫だ…」

「本当…?…!ラヴィーネ、その押さえてる場所って…!」

「大丈夫だ つってんだろ…」

ラヴィーネは瞳を閉じ、数回、深呼吸をする

痛みが落ち着いたところでラヴィーネは立ち上がった

「すまん…心配させちまったな」

「ねえ、本当に大丈夫?大丈夫なの?」

「…大丈夫だ、今のところはな」

「今のところって…もしかしてずっと前から?…」

「…お前には話しておくか…」

ラヴィーネはカンネに痛みの状況を話した

「ラヴィーネ。もしかして少し休んだ方がいいんじゃない?」

状況から、痛みの原因を疲れやらストレスやらと推測したカンネが提案してくる

少し、といっても数日間大人しくしていろという意味だ

「ちゃんとお見舞いに行ってあげるからさ。なんだったら看病してあげる」

「だから大丈夫だっていってんだろ」

「そうはいっても!」

カンネが語気を強めて寄ってくる

流石にいつものような取っ組み合いの喧嘩にする気はお互いに無いが、だからといって主張を引っ込めるつもりもない

ラヴィーネは妥協案を提示した

「…分かったから、もう数日様子を見させてくれ。それでも状況が良くなんなけりゃ…話をきいてやるよ」

「…うん。分かった」

カンネはしぶしぶ提案を了承した

「でも、無理しないでね。明日は『あれ』があるし」

「ああ」

『あれ』とは、ラヴィーネの兄達がカンネとラヴィーネから『零落の王墓』の情報を聴取するというイベントだ

かの迷宮が踏破され、その後の迷宮の調査を大陸魔法協会は行っていたが、それ以外にも独自に兄達は情報を仕入れたいのだろう

そういった思惑もあり、カンネとラヴィーネに話を聞くことになったのである

とはいっても会場はラヴィーネの家の屋敷であるし、他に部外者を呼ぶわけでもなく、招かれたカンネはその後夕食を一緒に食べてもらいそのままお泊りしてもらう予定であった

「とりあえず、今日はもう帰ろ?」

「そうだな、今日はそうさせてもらうぜ。……すまん」

「気を付けてね」

ラヴィーネはカンネの意を汲んで、大人しく家に帰った

だがその後、ラヴィーネに痛みが再発することは無かった


PART 2/6


翌日

ラヴィーネの家の屋敷にて行われた聴取イベントは無事に終了した

ラヴィーネにはその最中に何回か痛みが発生していたが、幸いにもそれを悟られることは無かった


そしてその夜──────

「…………」

「…………」

夕食を食べ終えた後、二人は同じ湯船に身を浸していた…

「…何でお前がいるんだよ…」

髪が湯船に触れない様、自慢の長髪を巻き上げているラヴィーネは、何故かいた幼馴染みに疑問をとばした

二人は今まで一緒に入浴した事がないわけではない、だが、いきなり相手がいる!というのは経験が無い

「…だって…ラヴィーネの事が気になったから…」

いつものお下げを解いて髪が肩まで届いているカンネは、一人で入浴する気だった幼馴染みに心配してたからと返す

確実にラヴィーネの素肌を見れる機会として入浴時を狙っていたのだろう

「ねぇ、お腹のところ、痛くなるところを見せてよ」

「はぁ?なんでだよ」

「だって…そこが痛むんでしょ?」

「お前が見たってなんも分からんだろ」

「でも…いいでしょ?お願い…」

「お願いったって」

「嫌なら お風呂の水全部抜いちゃうよ」

(そういえばこいつは水を操る魔法使いだった)

浴槽を人質?にとられたラヴィーネは折れることにした

「分かったよ…まぁ、少しだけだぞ」

押し切られたラヴィーネは膝を抱えて座っていた状態から膝立ちの状態になった

ラヴィーネは誰もいるはずないとバスタオルを持ってきていなかったため腕と手のひらで胸と股間を隠している

「……見るんなら、早くしろ」

早速、顔をお腹のあたりに近づけてマジマジと観察するカンネ

「…本当に、傷跡残ってないね…」

「だろ……分かったならもういいだろ…」

流石に恥ずかしいのか顔を真っ赤にして終了をせがむラヴィーネ

「そのつもりはないよ。ラヴィーネ」

言うとカンネは、いつまにか置かれていた小瓶を取り出した

「これはね、体の内部の傷を治すのに効果のある薬なんだって」

小瓶の中には透明な液体が入っているようだ、一見するとただの水である

「内部って、中も私は異常なしって言われてんだぞ」

「けど…もしかしたら遅れて何か起こっているとかあるかもしれないじゃん」

「いやそれはないだろ、だったら痛み以外に異常がでてるだろ」

「でも…」

「大丈夫だって」

「でも…私あの時…そばにいてあげられなかった…もしあの時私がいたら…ラヴィーネをかばえたかもしれないじゃん…」

「馬っ鹿野郎、あの時にお前がいても変わらねぇよ。どうしようもなかったんだよあれは。

それにお前が私をかばうだぁ?できるわけねぇよ。何より…お前に同じ様な目にあわせたくなんてねぇ。無駄な事考えんな」

「…ラヴィーネ」

「でも…ま、気持ちは分かった。せっかくだから、その薬貰ってやるよ」

「ラヴィーネ…ありがとう」

言うな否や、カンネは瓶のふたをあけて、その中身を口に含んだ

「えっ」

ラヴィーネにとってまるで予想外の動きが目の前で起きた

「いやお前が飲んでどうすんだよ」

「えっ?これ塗り薬だけど」

「えっ。いやお前 だからなんでお前が口に含む必要があるんだよ」

「? だって、私の口からそこに塗ってあげるんだからこうしないと」

「いやいや手のひらに乗せて塗ったくるとかでいいだろ」

「だったらラヴィーネだけで 一人だけでもできるじゃん」

「それでいいだろよ。後で風呂上りにやりゃいいし別にいますぐ使う必要性ねえだろ」

「何よ、私にケアしてもらうのそんなに嫌なの?」

「そういうことじゃねえよ!いきなりその…何だ…口でするなんて言われちゃあせるだろ…」

「嫌とは言ってないよね」

「ぐっ…」

「ねっ、いいでしょ?…優しくするから…」

少し困り顔になって許しを請うてくるカンネ

(くそっ、この流れになるともう勝てねえ。どうしてこいつは私のツボをいちいち突いてくるんだ)

「ねっ?」

ダメ押しの一言にラヴィーネはハァ…とため息をつき

「分かったよ…もう勝手にしてくれ…」

「ふふ、ありがと。ラヴィーネ」


PART 3/6


ついにカンネの提案を受け入れたラヴィーネに対し

カンネはまず胸の下側の方の患部に指でふれる

(んっ…)

声には出さないが、ラヴィーネは反応してしまう

カンネのしなやかな指が患部をスリスリと滑る

大体このあたりが患部の範囲だとあたりを滑らすと

そのまま手のひらを肌に触れさせ、なでなでし始める

こそばゆい感覚とはまた異なる微弱な刺激をラヴィーネは受け始めていた

「…痛む?」

「いいや…」

続けておへその近くの患部に行こうとして、カンネはラヴィーネの肌の上を指で滑らすが…

股を隠すために伸びている腕が邪魔だったため、カンネはラヴィーネに目配せをする

「……」

ラヴィーネは無言で腕をどけてそちらも胸を抱える様にする

(ううっ…やっぱ恥ずかしいぞこれ)

カンネはもう一か所の患部も同じように指で滑らしたあとに手のひらでなでなでした

「ラヴィーネ、やっぱり外は全然問題ないね。お肌もスベスベでキレイで柔らかくて…」

「ば…か、今は関係ねぇだろそれは…」

「そうだね。じゃあ、今から薬を塗るからね」

(いよいよだ)

ラヴィーネはどうしても緊張してしまう

提案を受けてからここまでの間にこれからカンネが行うであろう光景を一瞬だけ想像することができたが

それでも異様な背徳感を感じてしまった

(私の理性は持つのだろうか…)

そんな事態すら可能性として視野に入れ始めたラヴィーネをよそに

カンネは再度薬を口に含んだ

そして、上の方の患部に口づけをした

チュ…

間髪入れずにカンネの舌が肌に触れそこを伝って薬が肌に触れる

薬を染み込ませるつもりでもあるのか、舌が肌をほんの少しだけ押し、さらにスリスリと舌を左右に踊らせる

「ふ…ぅ…」

その動きを受けて乱れた呼吸がラヴィーネから漏れる

カンネは少しすると唇と舌を滑らせ、濡れていない場所に移る

そして、同じ様に薬を肌に塗りたくっていく

(ラヴィーネ…どうか良くなって…)

(やばっ 気持ちよくなってきやがった…)

ラヴィーネは肌から流れてくる感覚の種類を自覚してしまう

無言の間が二人の間に少し流れると、カンネは一旦動きをとめる

ラヴィーネがホッとしたのもつかの間、カンネは唇を肌に触れたままツツーと動かして、おへその近く、下の方の患部に到達した

(まだ半分ってことかよ…)

ラヴィーネはふとカンネの頭から視線を奥に向けると、湯船の中ではあるが丸見えのカンネのお尻が視界に入る

ゴクリ、とつばを飲み込んでしまうラヴィーネ

(いかんいかん、何を考えているんだ私は…)

目の前ではカンネが一心不乱に献身を見せているというのに、とラヴィーネは自戒する

(だからといってお腹のカンネを意識するのもなぁ…)

誤魔化しを兼ねてラヴィーネが悶々として耐えていると、再びカンネの動きが止まった

そして、もう十分と判断したのか唇をラヴィーネの肌から離した

薬なのかカンネのものなのか分からない透明な糸が唇と肌の間に架かってはすぐに切れて消えていった

「どう…?」

「どう…って、いわれてもな」

(気持ちよかったなんていえるかよ)

「じゃあ、背中の方にもするね」

カンネは前の方だけではなく背中側にも薬を塗るつもりの様だ

「ラヴィーネ、背中向けて?」

「…前だけで充分だろ」

「何言ってんの、後ろの方だって同じでしょ」

(言われてみれば確かにそうだ 背中の方も貫かれたところに違ぇねえ…そっちの方には意識行ってなかったな…)

背中の方をないがしろにしてたから、痛みが収まらないのかもしれない

もしかしたら自分よりもカンネの方がこの傷に向かい合っていたのかもしれないと思うと、ラヴィーネは断れなくなった

「分かったよ」

そういうとラヴィーネは後ろを振り向いた

胸を抱えていた両手は浴槽の端に手をついて体を反らす角度を整える

普段は背を覆う髪も今は編み上げているので、ラヴィーネの背を隠すものはなにもない

カンネよりも体のくびれの弱強がはっきりとした腰とお尻のラインや、うなじを晒すのは幼馴染み相手といえど恥じらいが生まれる

「…早くしろ」

「うん、ちょっと待って。………じゃあ、始めるからね…」

カンネの声が聞こえると、無意識に少し体を強張らせてしまう

しかしすぐに、カンネの唇と舌の感触が背中に出現する

そして、ペロペロとカンネの舌の踊る感触が伝わってくる

(おいカンネ前の時より動きが大きくなってないか?)

実際、その通りなのだが、ラヴィーネには見て確かめる術はない

氷を生み出し鏡にするという手もあるにはあるが、この精神状態ではとてもそんな精度の氷鏡を作る自信はない

(見えないから、なんかその分想像しちまって…)

スルッ…

どうしても背中に意識が集中してしまっているラヴィーネに更なる試練が訪れる

「!?」

カンネが後ろから手を回して来て、今舐めている部分の反対側=先ほど塗っていたお腹の部分をさすり始めたのである

「あ…ああっ…」

前後で患部をケアするという行為は分からないでもない、その間にある体内に真の原因の可能性があるならなおさらだ

とはいっても前はカンネの手、後ろはカンネの舌で責め立てられもすれば、ラヴィーネも悶える声をもらさざるを得ない

「カ、カンネ そこまでしなくてもいいって…」

しかしカンネは答えない

(我慢しろラヴィーネ カンネは私のためと思ってやってくれてんだから)

前の手は肌に塗られていた薬がまとわりつき、その状態で肌の上をうごかすものだからヌチャヌチャと水音がし始め

当然感触の方も、液まみれの手が肌をこするため、普通になでなでされる時と全然違う代物と化していた

(耳まで責めたてるつもりかよ…)

なんとか耐えてると、ようやく片方のケアが終わり

続いて、下の方の患部へのケアが始まる

(ラストだぞ ラヴィーネ)

そちらでも前の方にはカンネの手があてられ、水まみれのなでなでが始まった

後ろの方もひたすらに薬を肌に練り込んでいく

(ここまでしてもらえれば もう大丈夫だ。精神面が原因ならなおさらだ)

頭なでなでの時といい、カンネの献身にはこれまでどれだけ救われてきたのだろうか

そして今も助けてもらっているこの現状も、ラヴィーネにとって恵まれている事の証明であった

そう想いを巡らせている内に、もう一方の患部のケアが終わりを告げる

「…はぁ これで、大丈夫かな?」

唇を離したカンネが深呼吸してラヴィーネに話しかける

「はぁ…充分だろ」

ラヴィーネもちょっとした快感の我慢から解放されて、ホッと一息つくと

再び振り向いて、カンネと向かい合う

カンネはラヴィーネが振り向くのと同じタイミングで立ち上がっていた

カンネの姿がラヴィーネの視界に入る


PART 4/6


ズキン


刹那、痛みが走った

まさに今の今までカンネの献身を受けていたところに

「…うそ…だろ…」


ズキン


まただ

ラヴィーネの顔が、先ほどまでの熱さが嘘のように青ざめていく


「…ラヴィーネ?」


ズキン


「ラヴィーネ?」

カンネの声に応える事ができない

痛みが消えない、今のが無駄になったのだと、関係なかったなどと言えるわけがない

ラヴィーネは自分の名を呼び続けるカンネを見れず、思わず顔を反らしてしまった

すると、すぐに痛みが失せた

(…?)

痛みが失せたなら、カンネに応えなければ、と

ラヴィーネは再度カンネの方を向いた


ズキン


痛みが走った

ラヴィーネは顔を反らした


痛みが消えた


またカンネの姿を視界に捉えた


ズキン


カンネを視界から外した


痛みが消えた


カンネを見た


ズキン


痛い


(カンネを見ると、痛む)

ラヴィーネはついに痛みの発生源を掴んだ。だが、その理由は皆目見当がつかない

「ラヴィーネってば!」

カンネの怒声にハッと我に返るラヴィーネ

「あ…あぁ…」

「ねぇ、どうしたのラヴィーネ?治ってないの?」

自身の状況をカンネの口から先に言い当てらわれてしまった

そしてラヴィーネにはそれを誤魔化したり余裕は無かった

「ああ…しかも…お前を見ると痛むんだ…」

「私を?」

「そうだ…自分でも信じらんねぇよ…なんでお前が…」

「ラヴィーネ…」

「なんでお前を見て私が苦しまなくちゃならねえんだ…」

「……」

「……」

さしものカンネも言葉に詰まる

歪むラヴィーネの表情、とうとう二人の間を沈黙が支配してしまう

だが、その沈黙を破ったのもカンネだった

「もしかしてさあ、私を見てラヴィーネが痛いってことは、ラヴィーネは私を見たくないって事なのかもしれなくない?」

「いきなり何言ってんだよ」

「…いやなんかさ、ラヴィーネが私の事見たくない!って思っててさ、それが影響して痛みを発生させてるとか」

「んなことあるかよ」

(むしろお前を視界に入れてないと不安で仕方ねえよ)

「本当?本当にそう?何か心当たりはないの?」

「しつけーなお前も…だいたいあったとしてそれがどうしてこの傷と…」

ラヴィーネが何気なく『傷』の部分にふれようとすると、ラヴィーネの動きが止まった

『傷』

(そうだ、この『傷』を受けたのは…)

ラヴィーネの手がわずかに震える

そしてラヴィーネはカンネを見る

痛みが走る

と同時に視界の一部が歪む

…視界に映るカンネの腹部が歪む…

(へっ…そうか、そういうことか…)

「…ラヴィーネ?…震えてるの?」

「カンネ。ようやくわかった」

「え?」

「痛みの原因だよ」

「ホント!?」

「ああ…。まずは…カンネ。お前は私がお前の複製体と戦って倒したのは知ってるな?」

「うん」

「どうやって倒したかってのは知ってるか?」

「知らない」

「だよな、話してねぇもんな。私はな、攻防の末にネフティーアでお前の複製体を倒したんだ」

「たぶん、そうだろうね」

「複製体の防御をかいくぐった氷の矢が複製体に命中したんだ。複製体の腹にな」

「うわっ…」

「それで私は勝負ありと思ったんだ。矢が刺さってな。

だが…。

私の矢は腹を突き破って、複製体の胴体を真っ二つに割ったんだ。

だが複製体のお前は当然表情なんか変えない。

そのまま複製体の下半身は私の方に倒れ込み、上半身は私の方から離れる様に倒れていって消滅したんだ。

私はお前を真っ二つにしたんだ!!」

「…」

「いい気分なんかじゃねえよ、そしたらすぐに私はあの髪に貫かれて…

複製体への後ろめたさなんかふっとんじまったんだ…

だけど心の中にはまだ残ってやがって…今になって…」

複製体とは言えカンネへの攻撃で生まれた心の傷がゼンゼの複製体からの傷と融合し、外傷・内傷が癒えてもカンネの身体をトリガーとした痛みの発生源となった、ということだろう


PART 5/6


「悪りぃ、カンネ…悪い…」

瞳に涙を浮かべ、表情が崩れ、唇を噛むラヴィーネ

「ラヴィーネ…」

「………」

打ちひしがれるラヴィーネ

すると、お互い一糸纏わぬ姿のままで、カンネはそっと、ラヴィーネを抱きしめた

ラヴィーネの頭を自分の胸元にうずめさせ、ポンポンと頭に優しく触れる

「……!」

「大丈夫だよ、ラヴィーネが倒したのは偽物。本物はほら、ここにいるよ。大丈夫だよ」

「カンネ…ううっ…」

ついにラヴィーネから涙が零れ落ちる

「気にしすぎだよ。ラヴィーネ。だって私は何ともないもの、だから…ね?元気出して?」

「でも…」

「…私、嫉妬しちゃうな…その複製体に」

「?」

「だってラヴィーネにそんなに悪いと思われてるなんて、姿が私だからこそ嫉妬しちゃうよ」

「…あんな偽物に嫉妬なんかするなよ」

「だったらラヴィーネもあんな偽物にこだわらない!」

「…分かった…分かったよ」

「そうだ…じゃあさ、こうしようよ。よく聞いて、ラヴィーネ」

「…?」

「私はラヴィーネの攻撃で身体が二つになってしまいました。

でも、すぐにラヴィーネがくっつけてくれれば治ります。

そうしたら、ラヴィーネは私を治してくれますか?

はい か いいえ で答えてね」

「…はい」

「それじゃあね」

カンネはラヴィーネを抱きしめるのをやめ、ラヴィーネの眼前が自分のお腹になるように少し立ち上がった

そしておへその高さに合わせた指を腰の端から端にスーッと動かす

「ここからここまで斬れちゃいましたから、ラヴィーネが治してください」

「治すったって…」

「ここにラヴィーネが熱いキスをしてくれれば治ります。キスをしてくれますか?

はい か いいえ で答えてね」

「………はい」

「じゃあいいよ、始めて…。私をそしてラヴィーネを治してね…」

「カンネ…」

ラヴィーネは言われるがままにカンネのおへその横に口づけた

そしてチュウウと、カンネにも聞こえるほどの音を立てて吸い付いた

「んっ、ラヴィーネ…いいよ、それで…んっ」

(カンネ…)

ラヴィーネが思いきり吸い付いて、軽くその部分を舌で舐めて唇と離すと

真っ赤なキスマークがくっきりとカンネの肌に咲いていた

(我ながらガッツリキスマーク付けたな…)

ラヴィーネが節操の無さに自分で少し引いてると、カンネの声が降りてくる

「そこだけじゃないでしょ?」

「ん?」

「一か所だけでくっつくわけないじゃん、もっとぐるりと…ね?」

カンネはさっきの指を後ろの方にも回してまるで一周するような仕草を見せた

「いや、それはやりすぎだろ…」

「私はいいよ、ラヴィーネは嫌?」

「………やる、やってやるよっ」

「ふふ、元気出たかな?」

覚悟を決めたラヴィーネはカンネに貼り付いて、ひたすらにキスマークを増やし続けた

後ろに回って背中側にもキスマークを並べ、お腹側に戻ってきてついにキスマークをカンネの腰にまるまる一周付ける事に成功した

「はぁ…はぁ…どうだ、これで文句いわせねぇぞ」

一線上のキスマークはまるで千切れた胴体を糸で縫い合わせた跡にみえるように並んでいる

「これで…大丈夫でしょ?」

そういわれると、カンネを視界に入れても何ともない

(いつの間にか痛みを払拭できたみたいだな)

「ああ…ありがとな、カンネ」

「ラヴィーネ…」

感謝の言葉を贈ると、ふと二人の視線が交わる


PART 6/6


「……」

「……」

顔の高さも同じくらいだ、そして二人は先ほどの行為でどうにも熱がこもってしまっていた

ラヴィーネが徐々に顔をカンネに近づける

それはつまり唇の距離も近づいているわけで…

しかしラヴィーネは顔の軌道を反らし、カンネの左肩にカプ、と口を広くにひらいて食いついた

「ラヴィーネ…」

チュウチュウと、まるで吸血の様に肩に吸い付くラヴィーネ

そこは屍誘鳥にカンネが負傷させられた箇所であった

確かに、自分の手の届かない時にカンネが傷ついたあの出来事は、ラヴィーネにとっては悔しい出来事でもあった

それを今、振り切る

(ラヴィーネ…覚えてたんだね…)

プハァ

ラヴィーネが大き目のキスマークを肩に残したのを確認すると、再び二人は顔の高さを合わせて見つめ合う

またも、徐々に近づいていくラヴィーネ

しかし

「ラヴィーネ。私の唇は、まだ傷ついていないよ?」

ここにきて、カンネは遮断器を降ろしてきた

二人の今までの行為はあくまでラヴィーネを救う行為、そしてラヴィーネの悩みが解決した今

それ以上の行為は…一線を超えるための鍵でしかない

そしてここで、カンネはその鍵をラヴィーネに託したのだ

ラヴィーネは逡巡する

(どうする…今からカンネの唇を傷つけてそのまま奪うか…?

だめだ、そんな自作自演なんて、下衆もいいところだ

…今は諦めるか…この後どうせ同じ部屋で寝るんだしチャンスはいくらでも…

いやでも、お互いの肌に触れた唇同士を今、合わせたい…)

カンネもラヴィーネも視線を外せない

(…いいか、もう。先に進んじゃっても…)

ラヴィーネは欲望に負ける事にした

もし本当にダメなら、カンネが止めてくれるだろうと、ここにきてカンネに甘えることにした

ラヴィーネはさらに近づきつつ、

強引にロマンチックな雰囲気を無理矢理演出しようとほどけたカンネの髪を手ですくい上げようとする

(ラヴィーネ…来るんだね…)

ラヴィーネの態度を察し、カンネも少し緊張してくる

鼓動が高まってくる

ところが、ラヴィーネは髪をすくい上げたところでピタッと動きを止める

(?)

動きが止まったのは一瞬だった

そして、ラヴィーネは

手ですくい上げた髪の一房を持ち主の顔の前まで持っていき

カンネの口元にはらりと垂らす

上気した唇のピンク色が隙間から覗くオレンジの髪の上に

ラヴィーネは唇を乗せた


長い入浴が終わり

二人は寝間着に着替えてラヴィーネの部屋──いつの間にか枕が二つに増えている──で就寝までのんびりとした時間を過ごしていた

カンネはベッドに腰を下ろし足をプラプラさせ、なんとなく指で自分の髪をいじっている

ラヴィーネが幾度となく掴み引っ張って痛みを与えていた髪を、

先ほど、癒しの口づけを受けた髪を…

ラヴィーネは机で頬杖をついてカンネの方をなんとなく眺めている

「んー。昨日できなかったことやろうぜ。確か買い物の予定だったよな」

「そうそう!買い物!昨日新作のお菓子を出してる店があったんだよ!一緒に買いに行こう!」

「あいよ」

他愛もない話をしながら、夜は更けていった


翌日

いつもの服に着替えた二人だったが

カンネのお腹のキスマークが全く消えずに残っていたため

ラヴィーネの私服からなんとか着れるのを探しておでかけしたのでした


おわり

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